がんゲノム医療と遺伝子パネル検査
ゲノムとは
私たちの体には37兆個の細胞があり、各細胞では2万数千個の遺伝子が働いています。遺伝子をはじめとする遺伝情報の全体をゲノムといいます。人の遺伝情報は、父親と母親から23本ずつ受け継いだ計46本の染色体に折りたたまれて保存されています。これらが正しく働くことで脳や腸管、皮膚や筋肉などの様々な機能を維持しています。
がん細胞のゲノムを調べ、どの遺伝子に変化が起こっているかを知り、その変化に適した治療法を選択するのが「がんゲノム医療」です。

がんと遺伝子
細胞の「がん化」は、遺伝子に変化がおきて正しく機能しなくなると生じます。がんの多くは、加齢やたばこ、食生活などの環境要因によって遺伝子に傷がつき、それが蓄積することで発生します。現在、日本人の2人に1人ががんに罹患しています。

細胞の「がん化」は、遺伝子に変化がおきて正しく機能しなくなると生じます。がんの多くは、加齢やたばこ、食生活などの環境要因によって遺伝子に傷がつき、それが蓄積することで発生します。現在、日本人の2人に1人ががんに罹患しています自分はがん家系ではないかと心配されている方もいらっしゃると思いますが、ほとんどのがんでみられる遺伝子の変化は次の世代に受け継がれることはありません。一方で、親から受け継いだ遺伝子に元々がんになりやすい変化があり、発症リスクが高くなる場合があります。こうした遺伝要因による「遺伝性腫瘍」は全体の5~10%くらいとされます。
当院では、遺伝性腫瘍と診断された患者さん、ご家族を対象に、今後の健康管理や対策について遺伝カウンセリングを行っています。

遺伝子パネル検査について
検査技術の進歩により、一度に数百の遺伝子を調べる「がん遺伝子パネル検査」が開発されました。2019年6月から保険診療で受けられます。手術や検査で保存されたがん組織の遺伝子変化を調べ、その変化にあった薬剤が提案されます。
現時点では、検査の対象は、原発不明がんや希少がんなどの標準治療のないがん、あるいは標準治療が終了または終了見込みの固形がんです。検査を受けた患者さんのうち、新たな治療に結びついた割合は10%程度とあまり高くはありませんが、今後の進歩が期待されます。

がん遺伝子パネル検査とは
2019年6月に次世代シーケンサーを用いて一度に数百の遺伝子を調べられる2種類の「がん遺伝子パネル検査」が保険適用となりました。全国のがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院で、日常診療でがん遺伝子パネル検査が行われています。
がんゲノム医療連携病院である当院では、2021年2月までに約100名の患者さんに実施しています。当院で検査を行った症例は、がんゲノム医療拠点病院の広島大学病院の多職種によるエキスパートパネル(専門家会議)で、病理診断やがん遺伝子解析の結果を踏まえた臨床的意義づけおよび適切な治療法の検討が行われます。
がん遺伝子パネル検査の意義
この検査の目指すところは、遺伝子に基づく個別化治療(がんプレシジョン・メディシン)です。がんの発生・進展に強く関わる遺伝子変化を特定し、その遺伝子を標的とした最適な治療の提供を目的としています。個別化医療はこれまでも肺腺がんなどで日常診療として行われ有効性が証明されてきました。一方で、非常にまれな遺伝子変化に対する薬剤開発は臓器別には難しく、臓器横断的に遺伝子変化に基づいた薬剤の開発、承認が行われています。例えば、NTRK融合遺伝子は全体の0.3%と非常に稀です。成人や小児の様々な固形がん(膵臓がん、胆管がん、神経内分泌腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、肉腫、大腸がん、虫垂がん、婦人科がん、非小細胞肺がん、唾液腺がん、乳がん、悪性黒色腫、甲状腺がんなど)で確認され、臓器横断的にNTRK融合遺伝子に対する分子標的薬が承認されました。当院でもパネル検査で診断した症例に、分子標的薬であるエヌトレクチニブを使用し高い効果がみられています。
さらに、開発中の有望な治験薬にアクセスできることも大きな魅力です。欧州腫瘍学会(ESMO)では、次世代シークエンサーが積極的に推奨されるがん種として、非小細胞肺がん、前立腺がん、卵巣がん、胆道がんを挙げています。標準治療の少ない胆道がんでは、ゲノム異常が比較的高頻度に認められ、さらに肝内胆管癌ではFGFR遺伝子融合/増幅、IDH遺伝子変異、胆嚢がんではHER2増幅が多いなど、胆道がんのなかでも特徴がみられます。当院からも複数の方がこれらの遺伝子変化に対する治験に参加されています。
がん遺伝子パネル検査の将来
検査時期の見直しや血液を利用した検査などが検討中であり、今後さらなる発展が期待されます。当院でも最新の医療を患者さんに届けられるよう努めていきます。

