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口唇裂・口蓋裂の治療について

―お子様の健やかな成長、発育を願って―

県立広島病院歯科・口腔外科

出産されたお子様に、唇裂口蓋裂(しんれつこうがいれつ)が認められた時のご両親やご家族のショックは大変大きなものと思います。お子様が健常な子供たちと同じように成長していけるのだろうか?という不安も感じておられることでしょう。当科では、唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)のお子様の健やかな成長、発育を目指して、総合的な治療を行っています。この過程では新生児科、小児科、耳鼻咽喉科、小児感覚器科(言語治療)、小児歯科、矯正歯科などの協力体制が必要で、当院並びに近隣の病院を含めたチーム医療を進めています。ここでは唇裂口蓋裂の概要と県立広島病院歯科・口腔外科の治療方針について、ご説明します。

1.唇裂口蓋裂はどうして起こる?

口唇は胎生8週頃に、口蓋は胎生12週頃にできあがります。口唇や上顎、口蓋を形成するための突起といわれる組織が、それぞれ上方や側方から伸びてきて、顔面や口蓋の中央部で癒合することで、口唇や口蓋が形作られます。この癒合過程が、なんらかの原因で障害された時に口唇裂、口蓋裂が生じます。口唇裂や口蓋裂は、別々に起こることもありますが、同時に見られることが多いです(図1)。

図1 唇顎口蓋裂の成り立ち
(白砂兼光、古郷幹彦:口腔外科学第3版、顔面・口腔の異常、医歯薬出版、東京、2011より)

原因としては環境要因(約10%)、染色体異常(約10%)、遺伝要因(約10%)、原因不明(約70%)と言われていますが、はっきりとしていないのが現状です。

唇裂口蓋裂の発生頻度は、500~600人に1人と言われています。心臓などの内臓奇形以外で、身体の外に見られる体表奇形としては、日本では最も頻度が高いと言われています。遺伝要因がすべてではありませんが、親、兄弟に唇裂口蓋裂の方がいらっしゃる場合には、約10倍に発生頻度が高くなります。また、唇裂口蓋裂のお子さまのうち約15~20%が他の病気を合併しています。

2.唇裂口蓋裂による障害は?

口唇裂による見た目の障害以外に、唇裂口蓋裂のお子さまには様々な障害が起こります。

1)哺乳障害

口蓋裂のお子さまは吸啜力が非常に弱いので、哺乳が難しくなります。また、ミルクが鼻から出てくることがあります。

2)言語障害

口蓋裂のために鼻咽腔閉鎖(軟口蓋と咽頭の間を閉鎖する機能)が不可能なため、手術や言語治療を行わないと発音がうまくできません。特にパ行、タ行、カ行、サ行の発音が困難です。

3)咀嚼・嚥下障害

口蓋裂のため、また歯並びが悪くなるために、食べ物を噛んだり、飲み込むのが難しくなります。

4)中耳炎、風邪引き

口蓋裂のお子さまは風邪を引きやすく、また滲出性中耳炎にかかり易くなります。

5)顎や顔面の発育障害

口蓋裂のため、もともと上顎の発育は悪いのですが、手術の影響でさらに上顎の発育が悪くなることがあります。

6)歯並びの障害

上顎歯並びが悪くなったり、受け口になったりします。また歯の数が足りないことがあります。

7)心理的影響

コンプレックスを抱くことがありますが、青年期まできちんと治療を行うことで、改善できます。

3.治療の方針

当科では、唇裂口蓋裂に伴う様々な障害を克服し、お子様の健やかな成長、発育を目指して、総合的な治療を行っています。初診時から下記のような順序に従って治療を行っていきます。

1)初診

新生児科あるいは小児科で全身状態の精査を行います。合併症のあるお子さまでは、小児科などと協力して治療方針を立てていきます。当院での受診が困難な場合は、地域の病院を受診していただきます。

2)哺乳指導

口蓋裂のお子さまに対して、ミルクを飲みやすくするためのゴム乳首の改善や、口蓋裂用ゴム乳首の使用などのご指導をします。

3)ホッツ床の作成・装着

口蓋裂のお子さまの哺乳改善、舌の位置異常の改善、鼻の粘膜の保護、上顎の発育誘導を目的に、ホッツ床を作成・装着します。ホッツ床は生後できるだけ早い時期に、お子さまの上顎の型を取って製作します。柔らかい樹脂でできた入れ歯のような装置です(図2)。だいたい3ヶ月ごとに作り直しを行い、生後10~12ヶ月まで装着します。

(図2 ホッツ床)
4)口唇裂の手術

手術時期:できるだけ早期の手術を提唱する施設もありますが、形態や機能の回復のために、より正確な手術を行うには、やはりお子さまの成長を待ってから行うのが良いと考えています。当科では生後3ヶ月以後、体重5kgを目安に手術を行っています。入院期間は9日前後になります。

手術法:片側性唇裂と両側性唇裂で、手術法は異なります。

(1)片側性唇裂

当科では、ミラード変法という手術法を用いています(図3-1~4)。

(図3-1 切開線)
(図3-2 鼻腔内の切開線)
(図3-3 鼻孔底形成)
(図3-4 完成)

片側性唇裂では、患側の鼻翼は扁平になり、鼻翼基部は下方、後方に偏位しています。さらに鼻柱は健側に偏位し、口唇も吊り上った状態になっています(図4)。

手術後は、鼻や口唇の形態がほぼ満足できるように回復しています(図5-1、2、図6-1、2)。しかし、高度な完全唇裂では、初回の手術だけで完全な形態が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、鼻や口唇の修正手術を必要とすることがあります。

(図4 片側性唇裂)
(図5-1 術前)
(図5-2 術後)
(図6-1 術前)
(図6-2 術後)

(2)両側性唇裂

両側性の場合、裂の状態によって両側同時に手術する場合と、片側ずつ2回に分けて手術する場合があります。2回に分けて手術する場合は、生後3ヶ月頃に1回目の手術を行い、約2ヶ月後にもう一方の手術を行います。両側同時形成の場合、当科では、ミューリケン法という手術法を用いております。両側唇裂では鼻柱が短く、鼻翼は両側とも扁平になっています(図7)。手術後は口唇、鼻の形態は左右対称でほぼ良好ですが、鼻柱の短さは改善困難です(図8)。

(図7 両側性唇裂)
(図8 両側性唇裂 術後)
5)耳鼻咽喉科の受診

生後7~8ヶ月頃に、耳鼻咽喉科を受診し、中耳炎の有無の精査や、必要があれば中耳炎の治療を開始します。

6)口蓋裂の手術

当科では、1歳~1歳2ヶ月に口蓋裂の手術を行っています。この時期に手術をするのは、発音機能と上顎の発育への影響の両面を考慮した結果です。手術が早いと発音機能は良くなり易いのですが、上顎骨の発育が著しく障害されてしまいます。入院期間は9日前後です。

(1)手術法

手術法は、プッシュバック法とファーロー法の2種類を用いています。どちらも発音機能の回復は良好で、85%以上の正常言語獲得ができています。口蓋裂の手術は、単に口蓋の破裂部を閉鎖するのではなく、鼻咽腔閉鎖機能に重要な働きをする口蓋帆挙筋という軟口蓋の筋肉を正常な位置に戻して、左右の筋肉を繋げることが重要です。さらに軟口蓋の長さも延長する必要があります。

このため、プッシュバック法では硬口蓋前方部から粘膜骨膜弁を剥離し、それを後方移動することで軟口蓋を延長します。左右の口蓋帆挙筋は断端同士で縫合されます(図9-1~4)。

(図9-1 設計図)
(図9-2 剥離)
(図9-3 縫合)
(図9-4 完成)
(術前)
(術後)

一方、ファーロー法では軟口蓋の鼻腔側、口腔側の両方にZ形成といわれる切開を加えて、軟口蓋を延長します。左右の口蓋帆挙筋は重ね合わせられ、繋がることになります(図10-1~4)。

(図10-1 設計図)
(図10-2 切開)
(図10-3 鼻腔側の縫合)
(図10-4 完成)

(2)手術法の比較

プッシュバック法は、古くから多くの施設で行われている方法で、正常言語獲得の成績も良好です。しかし先の手術法のところで説明したように、硬口蓋の粘膜骨膜弁を広範に剥離し後方移動するため、術後に骨の露出面が大きくなります。このため上顎骨の発育が障害され、反対咬合(受け口)になる可能性が高いと言われています。

一方、ファーロー法は、硬口蓋の骨露出がほとんどないため、上顎骨の発育障害が少ないと言われています。発音機能の回復はプッシュバック法と変わらないため、優れた方法と言えます。しかし、一期的に硬口蓋も形成すると裂隙幅の大きい症例ではやはり骨露出が大きくなり、軟口蓋の延長も困難となります。この欠点を補い、ファーロー法の利点を生かすため、当科では、1歳時にファーロー法で軟口蓋閉鎖を行い、その6ヵ月後に硬口蓋を閉鎖する手術を行うという2段階の口蓋裂形成法を行っています。

7)言語治療

正常言語獲得のためには、適切な時期に適切な手術を行うことが必須ですが、口蓋裂の手術の後、言語治療を行うことでさらに良好な発音機能を獲得できます。

そこで、術前から言語治療の先生に診察していただき、口蓋裂の手術後も鼻咽腔閉鎖機能の状態や言語発育の状態を観察し、良い時期に言語治療を行ってもらうことになります。当科では、主として当院小児感覚器科に言語治療を依頼しています。通院が困難な方には、近隣の病院の言語治療科に紹介をさせていただきます。

口蓋裂の手術後は、できるだけ早く吸う、吹くなど鼻咽腔閉鎖機能の訓練を開始します。言語治療にうまく取り組めるようになるのは、大体4歳ぐらいですので、その頃から本格的な治療、訓練を行うようになります。小学校入学前後に、ほぼ正常言語の獲得ができると言われています。

8)口唇、外鼻の修正手術

初回の口唇裂の形成手術後、口唇や鼻の変形が残ったり、瘢痕が目立ったりした時には、小学校就学前(幼稚園の年長時)に修正手術をします。より良い形態に修正することで、お子さまが自分のお顔を気にすることなく、快適な学童生活を送れるようにするためです。鼻の修正は変形した鼻軟骨を露出して、正常な位置に修正、縫合することを行いますが、大がかりな修正術は、鼻軟骨の発育がほぼ終了する高校生頃に行うことになります(図11-1、2)。

(図11-1 外鼻修正術前)
(図11-2 術後)
9)歯列矯正治療と小児歯科の治療

歯並びの治療の開始時期は、反対咬合(受け口)や歯列不整の状況によって変わります。反対咬合が著明な時には、乳歯の時期(大体4歳ごろ)から矯正治療を開始することがあります。口蓋裂のお子さまは上顎の発育が悪いため、上顎の歯列の拡大が必要なことも多いです。歯科矯正治療は当院ではできませんので、広島大学病院歯科矯正科や、唇顎口蓋裂のお子さまの矯正治療の経験豊富な歯科医院に紹介させていただき、当科との協力体制で治療を進めるようになります。なお、唇顎口蓋裂のお子さまの歯科矯正治療は健康保険が適応されます。

また、歯科治療に慣れていただくことと、口腔の清掃や虫歯治療の管理をしていただく目的で、小児歯科にも紹介させていただき、同じように当科との協力体制で治療を進めます。

10)顎裂への骨移植手術

上顎の歯が生えて来る部分(歯槽部)に裂がある場合(これを顎裂と言います)、裂部の骨が欠損していますので、歯並びの治療を行っても、顎裂部に隙間なく歯を並べることができません。そこで顎裂に骨の移植を行って、歯槽部の骨の連続性を回復してあげると、顎裂部にも歯を移動することが可能になります。永久歯の側切歯や犬歯の萌出時期で個人差はありますが、8歳から10歳頃に顎裂部の骨移植術を行います。移植する骨は腸骨という骨盤の骨から採取するようになりますので、術後しばらくは歩行時に痛がったりしますが、退院後は機能的な障害は残りません。

11)顎矯正手術

歯並びの治療や顎裂部の骨移植などの治療を行っても、反対咬合が残った場合、手術で上顎骨を前方移動したり、下顎骨を後方移動したりして、反対咬合や顔貌の改善を図る顎矯正手術を行います。手術は下顎骨の発育がほぼ完了する18歳頃に行います。上顎骨や下顎骨を人工的に骨折させ、あらかじめレントゲン検査や歯の模型で計測することにより予測された良好な位置に、上顎骨や下顎骨を移動させて固定する手術です。この手術はかなりの出血を伴う手術ですので、当科では手術前に自己血を貯血して、出血に対応するようにしています。

以上のように出生時から青年期にわたり、全身的な病気の管理、中耳炎に対する治療、いくつかの手術や言語治療、さらに歯並びの治療など総合的な治療を行うことで、口唇裂や口蓋裂のお子さまも普通の方と変わりなく成長していくことが可能です。当院歯科・口腔外科のスタッフ並びに協力していただく医療機関のスタッフは、お子さまの健やかな成長、発育の手助けになるように全力で取り組んでいます。お悩みやご相談があれば、当院歯科・口腔外科の口唇裂・口蓋裂外来を受診してください。

参考にした文献
  • 「CLEFT LIP & PALATE」 Wyszynski著 Oxford University Press
  • 口唇裂・口蓋裂の基礎と臨床 高橋庄二郎著
  • 泉 -唇顎口蓋裂治療の手引き- 大阪府立母子保健総合医療センター口腔外科 
       西尾順太郎ほか著 大阪府
  • 口腔外科学第3版,顔面・口腔の異常,白砂兼光,古郷幹彦著 医歯薬出版,東京,2011
  • 神経・先天性疾患の病態理解と看護の視点.基礎知識編.口唇口蓋裂.
       桐山 健著 こどもケア9(4):20-25. 2014

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