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NICUに入院する赤ちゃんを痛みから護る!

NICUに入院する未熟な赤ちゃんは痛みを感じているの?

採血や点滴の際に針で皮膚を刺すと「痛い」と感じるのは当たり前です。以前は、脳の発達が未熟な段階である早産児は痛みを感じていないと信じられていました。しかし、痛み刺激を受け取る自由神経終末は妊娠初期に、大脳皮質までの伝達は妊娠中期〜後期前半ごろまでにできているのです。ヒトは内因性に痛みを抑える機能も持っていますが、この機能は出生前後に成熟していきます。つまり、未熟な赤ちゃんは、「むしろ成人より痛みを強く長く感じる」ことがわかってきました。

しかし、NICUに入院する赤ちゃんは痛みを言葉で表現することも自分で対処することもできません。

入院中の痛み経験は将来に何か影響をするの?

脳が発育している最中に「痛み」というストレスが繰り返されると、脳の微細構造や機能発達に影響を与え、将来痛みに過敏になったり鈍くなったり、行動や認知機能の問題に結びつくことがあるということもわかってきました。

対処する方法はあるの?

諸外国では2006年以後、新生児の痛みを評価し軽減させる介入するためのガイドラインが作成されています。しかし、周産期死亡率が世界で最も低い日本ではこの取り組みができていませんでした。2014年に「NICUに入院している新生児の痛みのケアガイドライン」が作成され(2020年改訂)、初めて国内のNICUで共通して新生児の痛みに対応できるようになり、ガイドラインに関する講習会が重ねられてきました。

実践例

部屋の照度、静かな環境、安楽な姿勢がとれるような工夫をして赤ちゃんのストレスを感じにくくしています。痛かったり苦しかったりするような処置はできるだけ一度に済ませる方が良いと思われるかもしれませんが、実は、一つの行為が終了したら20分程度の安静時間をとってストレスを軽減させてから次の処置に入る方が、痛みを感じにくくするのです。まずは、こういった環境調整につとめることから始めています。

新生児の痛みの評価

施設が定めた測定ツールを用いて新生児の痛みを適切に評価することを推奨する。(1C)

新生児は痛みを言葉で表現できないため、顔表情、四肢の動き、心拍数やSpO2の変動、涕泣など行動指標と生理指標の中から複数の項目を含んで構成される既存のツールを用いて痛みの程度を評価します。しかし、実際は、処置と疼痛緩和ケアを並行しながらツールを用いた評価をするには限界があります。加えて、ツールを使うためのトレーニングが必要で、誰でもすぐに使いこなせるわけではありません。

心拍変動や脳血流を用いた客観的なモニタリングも期待されていますが、新生児領域での実用には相当な壁があります。

日本で開発され、新生児の痛みを評価することに対する信頼性・妥当性が認められた簡便なツール【図1】が国内では最も普及しています。

【図1】
レベル上部顔面
表情
雛形成
部位
全身状態
皮膚色
特記事項
0なし全身状態は処置前と同じ収縮性以前の動きや開眼を認めることもある
1眉間眉の膨隆を認めるが、雛形成が不明慮なことがある
2眉間・鼻根・下眼瞼下部顔面/鼻唇溝を認めることもある
3
眉間・鼻根・下眼瞼・額(上眼瞼)下部顔面/鼻唇溝と開口を認める
額の皺/水平方向の他に、眉間に向かって斜めに走る皺もある
上眼瞼の皺/低体重の場合に出現する
4消失顔面蒼白や全身の弛緩が出現緩和法や処置中断により避ける

「日本新生児看護学会誌2010」より引用

具体的な疼痛緩和法

<非薬理的疼痛緩和法とショ糖の投与に関するガイドライン推奨文より>
  • Swaddling(包み込み)①やFacilitated Tucking(FT)②を推奨する。(1A)
  • 直接母乳授乳や搾母乳の使用を推奨する。(1A)
  • Non-nutritive-sucking(NNS、栄養に関係のない吸啜)を推奨する。(1A)
  • Skin-to-skin conduct(SSC)やカンガルーケアを行うことを推奨する。(1A)➂
  • ショ糖の投与は、医師の指示に基づき、足底採血・静脈穿刺・筋肉内注射の痛みの緩和に非薬理的緩和法(NNS、swaddling)との併用で使用することを提案する(2A)
①Swaddling(包み込み)
Swaddlingで採血
②Facilitated Tucking(FT)
片方の手で赤ちゃんの頭部、もう片方で四肢を屈曲させ、胎児の姿勢のように優しく包み込む(そっと触れる程度)
③SSC中の採血
赤ちゃんと母親との皮膚接触
④眼科処置の様子(人形モデル)
処置中、動かない様に支えるのはFTではない

SwaddlingやFTは①②のように優しく赤ちゃんを包み込み、手足をそっと屈曲させる姿勢にすることです。触覚や温覚系を活発にさせ、自己鎮静行動を促すことで発達を促進させると言われています。④の人形モデルのように、処置をするときに赤ちゃんが動かないようにバスタオルで包んだり、ぎゅっと抑える行為は抑制であってSwaddlingやFTではありません。

SSCは、③の赤ちゃんと母親の皮膚と皮膚を接触させるケアで、腹側の触覚系を刺激して痛みを和らげる効果があります。

直接授乳では、新生児のβエンドルフィンおよびオキシトシンレベルを増加させること、腹側の皮膚と皮膚の接触、母乳中の糖質、脂肪およびその他の栄養素の効果と吸啜を組み合わせて痛みを軽減することができます。日本では、個室のNICUが少ないこと、他者の前で素肌をさらけ出すことへの躊躇があること、やっと直接母乳を与えることができる至福の時に痛い行為をされることへの懸念という母親の心情に配慮し、行う場合は母親の同意を得ることが推奨されています。

ショ糖の鎮痛メカニズムは、ラットを対象とした研究結果から、甘味を感じると内因性オピオイド物質であるβエンドルフィンが分泌されることによって発現する効果であると考えられていますが、ヒトの早産児では確認されていません。しかし多くの研究結果から20%ショ糖の鎮痛効果は証明されています。一方でショ糖は薬として処方できないこと、嚥下ができていない早産児に投与する際の誤嚥のリスク、甘味を与えることへの家族の躊躇、繰り返し投与した場合の長期的な影響が不明であることなど様々な課題があることが実践の妨げにもつながっています。

当院では、NICUで働くスタッフに新生児の痛みに関する教育やトレーニングを行い、必ず医師と看護師がペアで疼痛緩和を実施しながら処置をしています。次の段階は、家族にもご理解いただいて、共に赤ちゃんを痛みから護るケアの実践につなげていきたいと思っています。

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